児童健全育成の概要

 
1 児童健全育成の理念と目的
 

 次の時代を担う児童が心身共に健やかに育成されることは、児童の生涯の基礎を作ることであるとともに、国民全体の福祉の基礎でもある。戦前期には児童の育成はもっぱら教育の仕事とされ、児童福祉は貧困、虐待、非行、母子家庭、妊産婦等要保護児童の福祉に限定されていた。しかし、第2次世界大戦後児童福祉法の制定により、積極的にすべての児童の健全な育成を社会の貴務と規定する児童福祉法が制定され、それまでの児童虐待防止法、少年教護法、救護法等の集大成に留まらず、健全育成は児童福祉の全体目標として明確に規定された。
 
 さらに現在急激な経済・社会事情の変化、特に核家族化の進行、都市化の進展、農山村事情の変化等によって、家庭における児童養育機能の低下、児童の生活環境の悪化、住民相互の連帯意識の希薄化等の児童養育上の種々の問題を引き起こしており、これらの問題を解決するためにも児童の健全育成対策が積極的に准進される必要がある。(広義の健全育成)
 
 児童健全育成は、広義には児童福祉法第1条に児童福祉の理念として掲げられている「心身ともに健やかに・・・育成される」ことであると考えられる。この目標は教育、労働などの各分野で追及されるものであるが、特に児童福祉の分野で目指すべきものとしては、昭和26年に国民各部の代表により宣言された児童憲章が12項にわたり言及したなかで、
 ・「家庭で、正しい愛情と知識と技術をもって育てられ、家庭に恵まれない児童にはこれにかわる環境が与えられる」(2項)
 ・「適当な栄養と住居と被服が与えられ、また疾病と災害からまもられる」(3項) 
 ・「自然を愛し、科学と芸術を尊ぶように導かれ、また、道徳的心情がつちかわれる」(5項)
 ・「よい遊び場と文化財を用意され、悪い環境からまもられる」(9項)
 ・「虐待、酷使、放任その他不当な敬扱からまもられる。あやまちをおかした児童は適切に保護指導される」(10項)
 ・「身体が不自由な場合、または精神の機能が不十分な場合に、適切な治療と保護が与えられる」(11項)
などであろう。
 
 このように家庭に恵まれない児童、非行等を犯した児童、身体が不由由な児童等すべての児童の養育の目標が広義の児童健全育成であると考えられる。(狭義の健全育成)
 
 以上のような児童健全育成は児童福祉行政全般、例えば、母子保健、母子福祉・児童福祉に関する手当制度などの各児童福祉分野において追及されなければならない。これらの施策の中で、特に児童を直接対象とする施策としては「児童保護」と狭義の「児童健全育成」とがある。
 
 「児童保護」は保育所、養護施設、精神薄弱児施設、教護院等各施設への入所措置や里親への委託措置など、家庭に代わり、または家庭の養育を補い、児童を児童養育の専門家の下で育てるものを言う。児童福祉法第25条には要保護児童として、「保護者のない児童または保護者に監護させることが不適当であると認める児童」と規定されているが、これらの保護を要する児童とは一般に
 (1)孤児や遺棄された児童、保護者が行方不明の児童など、現に監護しているものがいない児童
 (2)保護者が虐待している児童、放任されている児童
 (3)盲、聾、虚弱、精神薄弱、肢体不自由などにより保護者の下では十分な監護を受けられない児童
 (4)非行、情緒不安定などを示し保護者の下では十分な監護が受けられない児童
 (5)保護者の労働または疾病等のため十分な監護を受けられない児童
であると解される。
 
 これに対し、児童健全育成は要保護児童の対策以外の広く一般の家庭にある児童を対象として、児童の可能性を伸ばし、身体的、精神的、社会的に健全な人間形成に資するため生活環境条件の整備、児童とその家庭に対する相談援助等の対策を行うものである。具体的には児童健全育成施策は次の各分野からなる。
 ・第1は、児童が家庭において保護者の温かい愛情と保護の下に養育されるため、家庭作りを援助する相談、指導のサービスを充実させることで   ある。
 ・第2に、児童の生活の大半を占める遊びの環境作りと地域における児童の育成に関する相互協力の活動などへの援助である。
 ・第3に、児童の豊かで楽しい遊びを体験させるための活動への直接的な援助である。




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